今回は、中野信子さんと、鳥山正博さんが書かれた『ブラックマーケティング 賢い人でも、脳は簡単に騙される』の中から、「大多数の意見が正しいと認識してしまう」というお話をします。
自分の正解より、みんなの正解!
多くの人がある事柄を支持すると、私たちは深く考えることもなく、周囲と同じ行動をとってしまいます。
それを証明した実験があります。
実験社会心理学者の第一人者と言われるソロモン・アッシュ博士による同調圧力の実験です。
その実験では、誰でも答えが一目瞭然な問題を用意します。
まず、被験者が1人の場合は、正解率が95%でした。
次に、実験の目的を知っているサクラを7人仕込み、被験者を含めた8人のグループで同じような問題を出します。
サクラたちはわざと間違えます。すると、被験者の正解率も65%まで下がってしまったのです。
つまり、約3割の人が、自分の考えより、周囲の意見に合わせてしまったのです。
多数派の選択は安全パイ!
なぜ、このようことが起こるのでしょうか?
それは、「脳が楽をしたがるもの」だからです。
脳は、隙を見つけては楽な道を探し、リソースを節約しようとします。難しい言葉で言うなら、「認知負荷」を下げようとしているのです。
自分でじっくり吟味し決めるより、他人の選択に相乗りした方が楽で、安全だから、と脳は認識、簡単にそっちに流れてしまうのです。
流行やブームなどが、どんどん膨らむのも同様の仕組みです。
暗黙な了解に逆らえない「危うさ」
この実験はまた、人間の「危うさ」さえも示しています。
集団の中にいると、そこにある暗黙の合意に人は逆らえなくなるのです。
誰がどっから見ても、緑色の信号を「青信号」という。
早く仕事が終わっても、周りが誰も帰っていなければ、自分も帰れない。
見るからに悪いとわかっていても止められない「いじめ」。
上記の実験を行った、アッシュ博士は一九二〇年にアメリカに亡命したユダヤ人でした。
こうした研究を手がけようと志したのも、ナチス・ドイツの暴走とホロコーストがあったことがわかっています。
「人間の行動は必ずしも、理性的に選択されたものでない」「数の優れている雰囲気に勝てない」「常識を疑う」
そういった意識を持つことで、これから先、会社や、住んでる国などといった組織が、間違った方向へ舵を取ろうとしているのではないか、とアンテナを張っておき、いざという時は逃げる準備をしておくべきなのかもしれません。
おまけ雑学:ペプシパラドックス
ペプシとコーラを飲み比べした実験を、皆さんもご存知だと思います。
これも、ヒトの「同調圧力の脅威」をよく表しています。
この実験は、ペプシが行いました。
ペプシは、いかにコーラの味に近づけるかに苦心していました。そして、ついに完成した自信作を、ぜひ一般の人にも試して欲しいと試飲テストを行います。
そのテストでは、まずブランド名を隠し、消費者に飲み比べをしてもらいます。すると、多くの人が「ペプシが美味しい」と選びました。
しかし、ブランド名の入ったボトルを置いて飲み比べてもらうと、コーラを選ぶ人が圧倒的に多かったのです。
純粋な味だけだったら、「ペプシ」の方が美味しい。しかし、ラベルがあると、世間の見解が「正解」だと認識し、コーラと答えてしまうのです。
人は、味覚までも、周りの判断に委ねてしまうのです。