ストレスが止まりません
一度は、カナンの地についたにもかかわらず、再び荒野での旅。
食事は、いつもの、マナとウズラだけ。焼いたり、蒸したり、揚げたり、いろいろ試しても、結局は同じ食事でした。
そして、目の前に広がる風景は、どこまで行っても荒野・荒野・荒野……。
このような状況下でしたので、民たちの不満とストレスは、どんどん膨らんでいきました。
コラの反乱
そこで指導者の一人、レビ族のコラが、仲間を引き連れ、モーセに物申しにいきました。
「モーセとアロン。あなたたちは、自分たちを神に選ばれた人間と勘違いされているかもしれない。だが、それは間違いだ。イスラエルの民、全員が聖なる民なのだ」
「なのに、お前たちは。いったい何様のつもりだ」
これに対し、モーセは言います。
「一体何が不満なのだ? 主はあなたたちを選び、特別な民としてくれた。それ以上、何を望むと言うのだ?」
すると、彼らはこう言い返しました。
「モーセ、貴様が私たちを荒野で死なせようとしていることだよ!」
「俺たちは、カナンの地へと戻りたいのだ!」
モーセは、自分の言うことを聞いてくれたない彼らに、辟易しました。
そこで、モーセはこの悩みを神に打ち明けました。
すると、神の回答は意外なものでした。
「コラ族の元から離れなさい」
神はこれまで、直接的にトラブルを解決してきました。なのに、今回はただ「離れなさい」と言うのでした。
ただ、神の言葉ですので、モーセはそのことに従いました。
そしたら、いきなり、地響きのような鈍い音が鳴り、大きな地震が起こったのです。
そして次の瞬間。コラが立っていた地面がパックリと割れ、一族もろとも、大地の中へと飲み込まれてしまいました。
香のランニング
翌日、民たちは、「やりすぎだ」「横暴だ」「何様のつもりだ」と、モーセを非難しました。
しかし、そんな暴言にモーセは、反論することなく、ただ聞いているだけ。
そして、この事態に対して、モーセは、再び神に相談を持ちかけます。
すると、神はまたしても驚くことを言ったのです。
「民たちから、離れなさい」
モーセは、この啓示に驚き、外に出ました。
すると、民の中から、一人、また一人と、次々倒れる人が現れたのです。そして、倒れた者のそばに駆け寄ると、彼らはもう息をしていませんでした。
モーセは叫びます。
「アロン。神の逆鱗に触れてしまった。今すぐ、祭壇の火を移し、香を炊きなさい。それを持って、民の間を走るのです」
何がなんだかわからなかったアロンですが、彼は、言われた通りに民たちの間を駆け回りました。
そして、アロンが、息を荒くしながら、モーセの元に戻ってきた頃には、神の罰は終わっていました。
おわり
「香」には「祈り」という意味があります。
アロンが香を持って、民たちの間を駆け回っていたのには、「民を救ってください」という祈りの意味があったのです。
神は、このように、意外と怒りっぽく、恐ろしい性格をしています。
そして、何か悪いことをしでかした際は、即座に罰を与えるのです。
一方、罰をいくら受けても、決して神への反抗をやめない人間もまた、いい性格をしています。
この両者は、これからも、争い、恐れ、愛し合い、赦し合います。
こうやって、両者の絆はどんどんと深まっていたのです。
ボーナストリビア:サードリアリティ
神話について学習していると、「そんなバッカなぁ」「アリエねぇ〜」と感じることが、度々あります。
しかし、私たちが現代生きている、このネットネットの世界も、10年前の私たちからしたら、「アリエねぇ〜」の対象でした。
例えば、昨今では、「サードリアリティ」などという言葉が巷を騒がせています。これは、楽天株式会社の技術研究所が、掲げている未来ビジョンです。
現実の空間が第1のリアリティ。
Webの影響でコミュニティやアイデンティティ等生まれたのが、第2のリアリティ。
そして、Webがより一般的なものとなり、人々の行動や考えが、Webをまたがって存在し、Webそのものも 「見えなく」なる。それが「サード・リアリティ」です。
身近な例で言うなら、これから生まれる赤ちゃんたちです。
彼らは、これまでとは違った環境下の世界のもとに、生まれます。
たとえば、これまでは、満面の笑みで自分を見つめる親の顔を目にするのが、人生のスタートでした。
しかし今は、スマホを片手に子守りする姿を目にするようになります。
聴く音楽もまた、母が自分の手でヨシヨシしてくれる子守唄ではなく、ニコニコ動画で再生回数の多い「子供が泣き止む歌」を耳にすることになります。
生まれた瞬間から、ネットと現実とが、あべこべの世界に生まれる赤ちゃんたちにとって、自分の母親よりも、初音ミクの顔と声の方が、一番心地いと感じるようになるのです。
神を信じる人間も、仮想世界を生きる人間も。
結局は、同じような思考回路のもとで、成り立っているのです。
(参考)