何かを伝える時、もっとも簡単なのは「口(くち)」で伝えることです。
「1+1」を答えるのに、わざわざ紙に「2」と書くよりも、口で言う方が何倍も楽です。
ただ、それは楽で、かつ容易という面においての話です。
より正確に、そしてより長期的に、何かを伝えようとする時、もっとも力を発揮するのは「文字」です。
自分のペースで読み、自分のペースで咀嚼し、自分のペースで消化する。
そういった面で「文字」は非常に素晴らしい発明です。
そして、その「文字」の持つ魅力の一つが、「名言」です。
食べやすい形にカットされた「名言」は、私たちの心に、多くの栄養をもたらします。
「幸せなとき」「辛いとき」「悔しいとき」「恨めしいとき」「妬ましいとき」
その時、その瞬間のあなたにあった栄養を与えてくれる。それが「名言」です。
そこで今回は、『100年後まで残したい 日本人のすごい名言』という本から、特によかった名言を3つほど紹介します。
(参考文献)
「わがなすことは われのみぞしる」
江戸時代末期の武士で、超イケメンだったと言われる坂本龍馬。
「何をしたの?」と聞かれれば頭の向きを急に変えてしまうけど、「一番好きな歴史上の人物だ」と答える人が多い、あの坂本龍馬です。
きっとこのような人気の一因は、『龍馬伝』の福山雅治さんのおかげです。
しかし、龍馬はただイケメンだから人気があったわけではありません。
むしろ、多くの人は、龍馬の人柄に惹かれていました。
恐れ知らずで、チャレンジ精神満載、若々しく、覇気がある。それに、観察眼も優れていて、合理的思考も持ち合わせている。
そんな魅力的な男だったからこそ、多くの人を引き付けたのでしょう。
だからこそ、龍馬が言う言葉も魅力的です。
「世の人は われをなにとも ゆはばいへ わがなすことは われのみぞしる」(世間の人には好きなように言わせておけばいい。自分のすることは自分にしかわからない)
「理解されたい」という欲求は誰しもが持っています。
また、「誰もわかってくれるない」という恐怖はとても辛く、時には、心が折れてしまうことさえあります。
しかし一方で、自分も、また誰かにとってのみんなの一人であることを忘れてしまっています。
結局、自分だって、周りの人のやっていることを本当に理解しているわけではないのです。
誤解したり、批判したり、よく知らずに判断していることもあると思います。
「わがなすことは われのみぞしる」
人生、自分が自分のことを知ってさえいれば、いたずらに他人の言葉に傷つくことはありません。
龍馬は、姉に送った手紙の中に、「日本を今一度せんたくいたし申候」と書きました。
私たちも一度、頭の中にある「世間の人」を洗濯してみてはいかがでしょう。
「根気づくでお出でなさい」
夏目漱石はよく、手紙の贈り物をしていました。
およそ2500通以上も書いていたそうです。
「根気づくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えて 呉れません」(一瞬の火花のようなものに人は驚くかもしれないがそれだけです。根気よくやっていけばあなたは尊敬される人になります)
これは、芥川龍之介に宛てた手紙の一節です。
漱石はまだ若い芥川の才能を高く評価しており、いずれ凄い作家になるだろうことを予見していました。
そのため愛情のこもった手紙を送り続けたのです。
そして、漱石は、上記の手紙の中で「牛になれ」と言っています。
我々は、早く走る馬になろうとします。成果を思い求めすぎるのです。
しかし、牛のように、うんうんと粘り強く押していきなさい、と漱石は言います。
「牛になれ」
とても素敵な手紙ですね。
「『サヨナラ』ダケガ人生」
井伏鱒二の言った言葉として知られている「『サヨナラ』ダケガ人生」は、もともと唐代の詩人、 于武 陵 による「 勧 酒」という五言絶句を、井伏鱒二が訳したものからきた言葉です。
勧酒 于武陵 満酌不須辞 花発多風雨 人生足別離
(訳) コノサカヅキヲ受ケテクレ ドウゾナミナミツガシテオクレ ハナニアラシノタトヘモアルゾ「サヨナラ」ダケガ人生
人生は出会いと別れの連続です。別れのない関係などありません。
そして別れとは、辛く悲しいものです。
そこで、別れに際し、最後の酒を飲み交わす。
「さぁ、遠慮するな。最後なんだから飲んでくれ」と。
「これこそが人生だ! 乾杯っ!」と。
「サヨナラ」ダケが人生。
「さよなら」こそが人生。
なんだか少しだけ、強くなれた気がする言葉です。