「あがる」
バスケットボールでは「ブリッキング(レンガに当たる)」と呼び、
ゴルフでは「イップス」と呼ばれています。
1970〜80年代には、イギリスで「ボトリング」と呼ばれていました。
この「あがる」という経験は皆さんも一度は経験したことがあると思います。
それはオリンピック予選の一回戦目かもしれないし、就職面接の時かもしれないし、小学校のスピーチの時かもしれない。
初心者は「あがらない」
まず、この記事の結論から述べよう。
熟練者だけが、あがる能力を持っている。
初心者にとってそれはむしろ利益になるものである。
こんな話がある。
アリゾナ州立大学の心理学者、ロバート・グレイは、大学の優れた野球集団を対象に実験を行なった。
無作為に流れる音を聴いて、周波数の高低を判断しながら、飛んでくるボールを打ち返すように求めた。
結果は、スイングに悪影響を及ぼすことはない、とのことだった。
次に、今度は、音がした瞬間にバットが上へ向かっていったか下へ向かっていったか述べるように求めた。
すると今度は、スイングに悪影響を及ぼした。
なぜだろうか。
まず一度目の実験で、なぜパフォーマンスが下がらなかったのか? についてである。
答えは「自動化」だ。
プロのアスリートは、パフォーマンスを自動化する。
何時間も練習することで、顕在意識ではなく潜在意識にコード化することができるようになる。
自動化された行動は、たとえ外部から多少の邪魔が入っても、大きな支障はない。
料理をしながらラジオを聞いても、指を切る主婦がいないのと同じだ。
しかし、二度目の実験は違う。
二度目の実験によって、潜在意識にあったパフォーマンスは顕在意識へと戻さなくてはならなくなる。
変に意識することで、普段よりもパフォーマンスが下がってしまう経験は皆さんもたくさん経験されてきたことでしょう。
普段なら料理することなんて、お茶の子さいさいの女子も、後ろに気になる男子が立っていれば、いつもより、ニンジンを大きく切ってしまうかもしれない。
普段なら一時間に六千字タイプすることができる父親も、息子が隣で鼻水を垂らしながら見ていたら、デリートキーを押す回数が通常の二倍になるかもしれない。
つまり結論はこうです。
問題は注意が足りないことではなく、注意がありすぎること!
こんな話もあります。
デイトン大学の心理学者、チャールズ・キンブルが行なった実験です。
テレビゲーム『テトリス』の上手いプレーヤーと初心者を数人ずつ用意し、大観衆の前でゲームをさせることで、強いプレッシャーをかけた。
すると、熟練プレーヤーたちの成績は落ち、明らかな「あがり」の兆候を示したのに対し、初心者たちはかえって成績を伸ばした。
つまり結論はこうだ。
熟練者もとい、技能を自動するほど長く練習してきた者だけが、あがる能力を持っている。
初心者もとい、まだ顕在システムを使っている者には、さらなる注意は、遂行の邪魔にならず、むしろ利益になる。
おわり
では、プロはどうすればいいのか。
一つの方法は、「たかが〇〇」「ただの〇〇」と思うことです。
「オリンピックでの問題は、望む気持ちが足りないことではなく、強く望みすぎることなんです」とサラ・リンジーは言います。
彼女は試合前にこう思うようにしているそうです。
「ただのスピードスケート!」
「ただのあほくさいスピードスケートよ!」
そう、かの有名なナイキのコマーシャルで言ってるようにただ言えばいいのです。
「Just do it !」
ちなみに、心理学では、このような、自分のありのまま、負の面も正の面も受け入れるような考え方を「ダブルシンキング(二重思考)」と言います。
さて皆さんもご一緒に。
「たかが人生!」
(参考文献)
『非才——あなたの子どもを勝者にする成功の科学』