今回は、中野信子さんと、鳥山正博さんが書かれた『ブラックマーケティング 賢い人でも、脳は簡単に騙される』の中から、「3つの危ないマーケティン」を紹介します。
ミラーニューロンを使ったマーケティング
一つ目は、ミラーニューロンの働きを利用したマーケティングです。
簡単に言えば、「これさえあれば……」と思わせるマーケティングです。
そもそも、ミラーニューロンとは、一九九六年にサルの前頭葉で発見された「他者に共感する」神経細胞のことです。
笑顔を向けられると自分の顔もほころんだり、他人のあくびがうつったりするのはミラーニューロンの働きだと推測されています。
ヤクザ映画を観終わったサラリーマンたちが、みんな強面になり肩で風を切って歩くのもこのミラーニューロンが関係しています。
人間の脳は目の前の相手の行動に、鏡のように反応する性質があるのです。
これをマーケティングに転換させない手はありません。
象に踏まれても壊れない筆箱や、一本で固い木材だって切れる万能包丁、つけるだけで美少女に変身するつけまつ毛。
「テックニックやスキルのない自分でも、これさえあれば……」と思わせるのが、ミラーニューロンを利用したマーケティングです。
ブランドに目がない私たち
二つ目は、人間の安直さに漬け込んだマーケティングです。
行動経済学者のダニエル・カーネマンは、人間の思考には二つのモードがあることを示しました。
「速い思考」と「遅い思考」です。
「速い思考」は、直観や感情といった、自動的に発動するものです。日常生活のおおかたの判断はこちらのモードで行われています。
一方、「遅い思考」は熟考のことで、意識的に努力しないと起動しません。そのため、多くの人にとって、この思考を意識的にすることは非常に難しいと言えます。
そして多くのマーケットでは、この「速い思考」をうまく使ったマーケットが行われています。
例えば、洗剤を買うとき。
多くの人たちは、その機能性まで考慮して買うことはありません。
土汚れに対してはどうだ? 油に対して? 漂白効果は?
などと、その商品の効果について納得いくまで検討し購入している人は少数派だと思います。
大抵は、「聞いたことがあるブランドだから」とか「しっかりしているメーカーだから」とか「同じブランドを買った経験があるから」などと、瞬間的に考え、決断しているはずです。
1日で意思決定できるウィルパワーには一定の量があります。
そこで、「速い思考」をマーケティングに応用するわけです。
タイムセールは最高!
三つ目のマーケティングは、「焦り」を利用したマーケティングです。
タイムリミット系の映画を見ると、自分もハラハラドキドキします。
問題がまだ数問残っている状態で、試験の残り時間が迫ってくると、心臓がバックんバッくんいいます。
残り時間が刻々と迫っている状況は、人間の思考や行動に大きなプレッシャーを与え、平常心で決断することができなくなります。
「時間的な制約」を使うことで、「いつもの自分」とは違った状態にその人を誘い込むことができるのです。
皆さんも、買い物や、習い事をなどを始めようとする時に、「タイムセール」「期間限定」の文字を見かけることがよくあると思います。
「後悔先に立たず」と諺にあるように、「できるのにやらなかった」ことを人間は後悔します。
時間に追われ〝焦り〟を感じ、「後悔するかもしれない」という気持ちになって、判断力が低下する。そうこうするうちに、購買力に火がつき……。
インターネットなどが普及により、そんな現象が、起こりやすくなったのが、現代のマーケティングです。
おまけ雑学:「損」に弱い人間たち
行動経済学には「プロスペクト理論」という言葉があります。
簡単に言うと、「損」をしたときの心理的価値は、「得」をしたときの心理的価値の二倍に相当するというものです。
つまり、人は「得をしたい」と言う感情よりも、「損をしたくない」と言う感情に左右されやすいと言うことです。
例えば、定価より2000円お得な商品があった時、人は「2000円安く買える」とは考えず、「今買わないと2000円損をする」と考えます。
心理学でいう「アンカリング効果」です。
「4800円」の数字に真っ赤な消し線が引かれ、その下に「3980円」と書いて販売する「赤札商法」がその典型です。
これが何度も買い換えるような消耗品であれば効果は絶大で、消費者にまとめ買いをさせることも容易になります。
また「今なら〇〇ポイントプレゼント!」や「〇〇円以上で送料無料」などといった、損をチラつかせる方法もあります。
人間は損をしたくない生き物ですから、上記のような権利を手にするハードルを低く設定すれば、多くの人が多少余分な買い物をしても、権利を得ようとします。
現代の資本主義社会の、なんて恐ろしいことや……