不安に強いチンパンジー
京都大学で暮らすチンパンジーのレオ君が、2006年、半身不随なりました。
病名は脊髄炎。
首から下が動かせないレオ君のために、教員と学生による介護が始まりました。
行動の自由を奪われ、寝床と身体の圧迫で血流が止まったせいで細胞が死に、レオ君の身体には全身を耐えがたい痛みが襲い続けます。
鬱になってもおかしくない状況で、しかし、レオ君に絶望の様子はありませんでした。
身体の痛みや空腹の辛さを訴えはするものの、それ以上の苦しみは表しません。
ときに笑顔を浮かべることすらありました。
また、尿検査でのストレスホルモンは正常値を保っていました。
レオ君が半身不随の苦境をものともせず、着実にリハビリをこなしていきました。
そして、レオ君は 1年で座れるようになり、 3年後には歩行機能を取り戻しました。
いつ絶望に飲み込まれてもおかしくない状況で、レオはどこまでも平常心を保ち続けたのです。
動物に感情はあるのか?
ただ、このエピソードが動物に感情があることが前提にあります。
しかし、本当に「苦」や「悲しみ」などといった感情が、動物にあるのでしょうか?
感情は哺乳類に普遍!
●「悲しみ」:インドの動物保護区では、老衰で命を落としたゾウを仲間が取り囲んで涙を流す様子が報告されています。
●「寂しさ」:仲間から離れたヤギは肉親が死んだ際に発する周波数と同じ鳴き声をあげます。
●「怒り」:エサの分配が公平でないことに気づいた猿は監視員に毛を逆立てます。
●「哀れみ」:子どもを亡くした親クジラは我が子の遺体を連れて延々と泳ぎ続けます。
もちろん、それぞれが具体的に、どのような感覚を抱いているのかは、わかりません。
しかし、哺乳類全般に関しては、感情は普遍的なものだとする見方は、間違いないはずです。
動物が「苦」に強いのは、バカだから?
ただ、動物と人間の「苦」に対する感情の大きな違いは、動物は「苦」をこじらせない、というところにあります。
動物の場合、たとえ半身不随になっても、人間のように、不安や鬱といった精神疾患に悩むケースはありません。
これは、なぜなのでしょうか。
人間よりも動物の知能が低いからなのでしょうか?
確かに動物は、人間と違い、大学受験も、就職試験も、結婚も、老後の年金問題もありません。
しかし、だから複雑な悩みをもたない、と考えるのは、安直なのではないのでしょうか。
「二の矢」がすべてを決める!
いまから 2500年前、古代インド。
ある時、マガダ国の竹林精舎にて、ゴータマ・ブッダが弟子たちに問題を出しました。
「一般人も仏弟子も、同じ人間である。それゆえに、仏弟子とて喜びを感じるし、ときには不快を感じ、憂いを覚えることもある。では、一般の人と仏弟子は何が違うのだろう?」
困惑して黙り込む弟子たちに、ゴータマ・ブッダは答えました。
「一般の人と仏弟子の違いとは、〝二の矢〟が刺さるか否かだ」
(原始仏教の教典『雑阿含経』より)
※竹林精舎(ちくりんしょうじゃ):仏教で建てられた最初の寺院である
生物が生き抜く過程では、「苦しみ」は避けられません。
その「苦しみ」は、労働によるものかもしれない、孤独によるもの、家族によるものかもしれません。
あらゆる「苦しみ」ランダムに発生する。
そんな、最初のどうやっても避けられない「苦しみ」が、〝一の矢”です。
そして、”一の矢”が刺さった時に重要なのは、”二の矢”をいかにして刺さらないようにするかです。
ここで多くの人は〝二の矢〟を刺してしまいます。
例えば、「病気にかかる」という”一の矢”が刺さった時、私たちは、「なぜ自分だけがこんな目に遭うのだ」「入院が長引いたら、クビだ……」「このまま死んだら、家族はどうすれば良いのか」「介護ばかり受けて申し訳ない」「もう人生は終わりだ……」などと考えます。
これが〝二の矢〟です。
このように、最初の「苦しみ」がまた別の「苦しみ」を呼び込み、同じ「苦しみ」が脳内で反復されるのです。
(※「反芻思考」(心理学)……いったん忘れた過去の失敗や未来の不安を何度も頭のなかで繰り返す心理)
おわり
この「反芻思考」のダメージは計り知れません。
鬱病や不安障害との強い相関があり、反芻思考が多い人ほど心臓病や脳卒中にかかるリスクが高く、早期の死亡率も高まる傾向があります。
いつも頭の中で否定的な思考やイメージが渦巻いていたら、”二の矢”どころか、”三の矢”、”四の矢”、”五の矢”、”六の矢”……をさしていることになります。
いかにして、”一の矢”で止めるか。
そのための方法として、「瞑想」や「0秒思考」などたくさん方策があります。
自分なりの”二の矢”を継がない方法を探してみていかがでしょうか。
(出典)
ボーナストリビア:牛は胃で少し消化した後、口に戻して噛みなおす!
「反芻」とは、一度胃内に飲みこんだ食物を再度口に吐き戻して咀嚼(そしゃく)の後、改めて嚥下(えんげ)・消化する摂食様式のことです。
主に、ウシ、ヒツジ、シカ、キリン、マメジカ(反芻類)などが行う行為です。
特に、上記のウシ科の動物たちは、面白いです。
焼肉屋のメニューにある通り、牛は、ミノ(第一の胃)、ハチノス(第二の胃)、センマイ(第三の胃)、赤センマイ(第四の胃)の、四つ胃袋を持つのです。
牛たちは、この4つの胃袋を使って、食事の際に一度飲み込んだ食べ物を吐き戻して何度もかみ直す「反芻(はんすう)」という行動をとることです。
では、なぜ反芻が必要なのでしょうか?
それは、食べたものを微生物の力で分解・発酵するためです。
ウシが持つ4つの胃のうち、第一の胃(ミノ)と第二の胃(ハチノス)には、7000種以上の「微生物」が存在します。
これらの胃のなかで、発酵によって生み出された成分を吸収することで、エネルギーを得ているんです。
また、反芻はひとえに食べたものの消化性を上げるためにも行われています。
牛は、胃のなかに微生物を住まわせる代わりに、仕事をしてもらっているのです。
しかも、微生物側からいた、一定の環境で、待っていれば、エサが落ちてくるわけですから、互いにウィンウィンの関係と言えます。
「汚い!」と思ったそこのあなた!
ぜひ、「苦しみ」を感じた時は、この「反芻」と「微生物」のイメージを思い出し、一回で飲み切ることを意識しましょう!