アース神族とヴァン神族
北欧神話に登場する神様たちは、アース親族とヴァン神族の2つに分かれます。
両者は、住む場所も、祖とする神も異なります。また、ヴァン神族は、巨人族とも混同されがちで、神様というより、妖精や魔法に近い種族だと言われています。
争い続ける神族
また、両神族は、たがいに反目し、戦争をしていました。その争いの原因の一つが、「セイズ」です。
セイズは、一種の魔法のことです。薬草や小道具を使うことで、トランス状となり、神と交信する、といったものです。
この魔法により、神々は予言を手にしていました。日本でいうところの卑弥呼が、これに近いです。
そして、このセイズを行なっていたのが、ヴァン神族のグルヴェイグです。グルヴェイグはセイズを使うことで、アース神族を惑わしていたのです。
グルヴェイグの処刑
当然、アース親族もそのことに気がつき、グルヴェイグを槍で貫き、三度焼くことにしました。
しかし巫女様ですので、彼女はその度に復活しました。
そこで、アース神族たちは、セイズによる「悪事」や、グルヴェイグのことで憤り、ヴァン神族に宣戦布告をしました。
人質交換
ここで少し余談になりますが、グルヴェイグについてです。
実は、グルヴェイグは単なる魔女ではなく、ヴァン神族の女神フレイヤであったともいわれています。もしくは、巫女がトランスしたのは、フレイヤであったとも。
話を戻します。
その後も、アース神族とヴァン神族は激しく戦いました。
しかし、やがて両族は、争いをやめ、人質を交換することで手を打つことにしました。
ヴァン神族からはニョルズと、その双子の子であるフレイ(兄)とフレイヤ(妹)を送ります。一方、アース神族からはヘーニルとミーミルが送られます。
アース親族に送られた、ニョルズとフレイ、フレイヤは、優れた神としてアース神族でも、すぐに受け入れられました。
しかし、ヴァン神族に送られたへーミルは違います。
知恵の泉を守っていたミーミルは、当然、有能でした。ただ、もう片方のヘーニルがそうではありませんでした。
へーニルは至って、凡庸だったのです。
使い物にならないへーニルを指導者にすえようとしたことに、ヴァン神族は怒り、へーニルではなく、有能なミーミルを殺してしまいます。
ミーミルはなんと、首を切断され、アース神族の元に送り返されてしまったのです。
おわり
ミーミルの甥であり、ミーミルの賢さを誰よりも知っているオーディン。
彼は、魔法でミーミルを生き返らせ、薬草で防腐処置を施しました。
その後、オーディンは、ミーミルの首を自分のそばに置き、助言者として、常に自分の側に置くようにしました。
ボーナストリビア:死と復活の神話
何度殺されても生き返るグルヴェイグのように、死と復活を繰り返す神話は、世界中にたくさんあります。
そしてその死と再生サイクルは、豊穣、つまり稲作にも通じています。
「槍で貫かれる」とは、農具で畑を耕すこと。「焼かれても復活する」とは、秋に収穫し、枯れてしまっても、また春に芽を吹くこと。
死と再生は、このような例えとして、考えることができます。
また他の神話、例えばギリシャ神話でも、この死と再生の物語があります。
豊穣神「デーメーテール」は、ある日、娘「ペルセポネ」を、冥界の王「ハーデス」に見初められ、冥界へと拉致されてしまいます。そして、冥界へ拉致されたペルセポネと妻となったのです。
そして、最愛の娘を失ったデーメーテールは大神「ゼウス」に、このことを相談します。ゼウスは、このことに嘆き悲しみ、ペルセポネを彼の元に戻すように訴えます。
ゼウスの頼みですから、ハーデスは従うしかありません。
しかし、ハーデースはここで、一計を案じます。なんと、ペルセポネに冥界の果実を食べさせたのです。
ギリシャ神話では、冥界の果実の食べたものは、冥界にとどまらなければならない、というルールがあります。これにより、ペルセポネは、冥界から離れることができなくなってしまったのです。
ただ、ペルセポネが食べた果実は、その実の三分の一。つまり、冥界にいるのも、一年の三分の一(4ヶ月)、ということなったのでした。
これは、ある意味、「死と再生」のサイクルにあるといえます。
(参考)