『マイティー・ソー』や『シュタインズ・ゲート』、『進撃の巨人』に『ロードオブザリング』など、映画やアニメなでよく扱われる「北欧神話」。
今日は、そんな北欧神話の中でも「ロキ」について扱っていきます。
トム・ヒドルストンは「ロキ」じゃない!
さて、北欧神話に登場する「ロキ」と言えば、皆さんはどんなキャラをイメージするでしょうか。
たぶん多くの方は、『アベンジャーズシリーズ』に登場する「ロキ」(演者:トム・ヒドルストン)をイメージすると思います。
それはつまり、「控えめで 、思慮深い弟的キャラで、繊細な心の持ち主。だが、父の裏切りを感じると、だんだんと、心が黒く染まっていく」といった感じです。
しかし、本当の「ロキ」は、そんな美しく、清く、人間的なものではありません。
北欧神話最大の問題児
北欧神話に登場する「ロキ」は、歪んだ心を持つ神様です。
また、ロキは生まれつき神様というわけではありません。生まれは巨人族の出身で、主神オーディンの義兄弟となることで、神々の仲間入りを果たしたのです。
自己中心的なロキ。盗みに騙し、監禁に脅迫、そして殺し。美しい女神を見かけては不倫をし、善良で幸せそうな奴には片っ端からちょっかいをだす。そんな性格の持ち主でした。
そして、このような悪行はどんどんエスカレートし、最終戦争「ラグナロク」を起こすきっかけを作ったのも、彼でした。
今回は、そんなロキの悪行の中で、特に印象深いものを取り上げます。
「バルドル殺人事件」
ロキの甥に「バルドル」という神様がいました。
バルドルは、オーディンとフリッグの息子で「光明の神」とも呼ばれていました。性格は、聡明で優しく、その姿は光を発するほどであったといわれています。
そして、そのような性格と容姿をもつ神様ですから、当然、両親の寵愛はもちろん、多くの人からも愛される存在でした。
一方、ロキは、人気者が無条件で嫌いです。ですから、なんとか、嫌がらせをしたくてたまりませんでした。
そんなある日、バルドルに「死」の予言が下されます。
それを知った母フリッグは、「何者もバルドルを傷つけられない」と、万物に約束させたのです。
それを聞きつけたロキは、無性に腹立たしい思いになりました。しかし、ロキは気を取り直し、フリッグに尋ねます。
「万物と約束だなんて、大変だったでしょう?」
「息子のためだもの。……でも、ヤドリギの若木だけは、幼すぎて傷つけられないだろうから、約束しなかったわ」
ロキは、このことを聞くとすぐに、ヤドリギを探しに出かけました。
盲目の弟
その頃、神々の間では、「バルドルに物を投げつける」という遊びが流行していました。バルドルにどんなものを投げつけても、はね返ってしまうのが、面白かったのです。
しかし、そんな遊びに参加できない、一人の神様がいました。それは、バルドルの弟「ヘズ」です。ヘズは、目が見えなかったのです。そのため、神様たちの中に加われず、寂しい思いをしていました。
そんなところに、ヤドリギを手にしたロキが登場します。ロキは、「さぁ、これで、君も楽しみたまえ!」と唆したのです。
こうして投げられたヤドリギは、バルドルの胸を投げ抜いたのです。
死者の女王
バルドルの死を受け、母フリッグは、ひどく嘆き悲しみました。
その姿を見かねた死者の国の女王「ヘル」は、ある約束をします。
「全世界の者が、バルドルの死に涙を流すならば、彼を生き返らせよう!」
人気者だったバルドル。母フリッグが、頼み込めば皆が涙を流します。こうして、次々と涙を流す人が増えていきました。
そして、ロキがこんな状況を面白く思うはずがありません。ロキは得意の「変身」で、女巨人「セック」に化けます。
そうとは知らず、フリッグが尋ねてきました。
「私の不幸な息子のために涙を——」
「流すものか!」
こうして、バルドルの蘇生は叶わぬものとなりました。
止まらないロキの悪行
「光明の神」を失ったことで、世界は以前よりも暗いものになってしまいました。そこに追い討ちをかけるように、ロキが登場します。
神々の宴で、列席していた神々を罵り、女神との不倫関係を暴露したのです。「お前にだけは言われたくないわ!」と神々の皆さんは思いつつも、真実であったので、何も言えませんでした。
しかし、ある日、ついにロキの悪行を看過できないと、制裁がくだされます。
地下に幽閉されたロキは、息子「ナリ」の腸で縛られました。
さらに、頭上からは、ヘビの毒が滴っていました。それを、妻シギュンは器を持って、ロキに毒がかからないようにしていました。
しかし、器がいっぱいになり、それを捨てにいくときだけは、ロキに毒が直撃します。
この時の、苦しみの絶叫が「地震」になったと言われています。
おわり
この拷問は、最終戦争ラグナロクの日まで続きました。
そして、こうした経験をしたロキは、ラグナロクで、神々の敵にまわります。
ロキは、灼熱の国の住人「ムスペッル」侵攻に加勢し、虹の橋の番人「ヘイムダル」と対決し、相打ちで果てたのでした。
ロキはこうして、最後の最後まで、ひねくれ者として生き抜いたのでした。
ちゃんちゃん!
ボーナストリビア:若返りのりんご
ロキの悪戯物語に、「若返りのリンゴ」というのがあります。
ある日、ロキは神々の敵である巨人族のシャツィに脅されます。シャツィは、神々の若さを保っている「若返りのリンゴ」を略奪しろと言うのです。
そしてロキは、リンゴを管理していた女神「イズン」を唆し、シャツィのもとへ拉致してしまいます。
そうすることで、シャツィの問題は、一見解決したかに見えました。
しかし、イズンの手から離れた「若返りのリンゴ」は、効果をなくしてしまいます。すると、神々は次々と年老いていってしまいました。
困った神々は、ロキを呼びつけます。
ふけに老けてしまった神々を見て、ロキは笑ってしまいますが……。しかし、神々の怒りに満ちた表情を見て、事態の深刻さに、今さら気が付きます。
「イズンを連れ戻さなかったら拷問だ」と脅されたロキは今度、シャツィの手からイズンを奪い返すことになるのです。
一つのトラブルが、新たなトラブルを呼ぶ。ロキらしい物語の一つです。
(参考文献)