本日は、北欧神話シリーズ第四弾「愛と美の女神 -フレイヤ」についてです。
ヴァン神族の女神
これまで、オーディンをはじめとするアース神族が主に、話の要として登場してきました。しかし、もう一つ重要な神族があります。
それが「光り輝く者」を意味するヴァン神族です。所属して神様で、有名なのが、ニョルズやフレイ、フレイヤなどです。
今回は、そんな中でも、フレイヤについて扱います。
ざ、ゴシップガール!
優れた知性をもつヴァン親族に、「愛と美」そして「豊穣」を司る女神「フレイヤ」がいます。
フレイヤの人物相関は、ニョルズの娘で、フレイの双子の妹、そして、オーディンの愛人(別名「フリッグ」)といった感じでした。
また、父は「富と海運」の神ニョルズで、兄も豊穣神フレイと、家族そろってセレブでした。
そのため、美しい外見とは裏腹に、放蕩娘で、性には奔放、恋愛に関する悩みは大好物と言った、海外ドラマの『ゴシップガール』よろしくの正確でした。
やりたい放題の「かぐや姫」
フレイヤは、お嬢様ですからもちろん、好きなもの、欲しいものはなんでも手に入れます。
例えば、神々も欲しくてたまらない黄金の首飾り「ブリーシンガメン」。
また、例えば、着ると鷹に変身できる「鷹の羽衣」。
価値が高い財宝も、貴重なアイテムも、彼女が欲しいと思ったものは、なんでも手に入ります。
そして、その欲は、物だけではありません。
彼女のペットもまた、ある意味、ゴージャスでした。
フレイヤは、猫が大好きでしたので、当然ペットも猫になるのですが。フレイヤは、その猫にも欲を出します。
なんと、戦車を馬ではなく、猫に引かせたのです。名付けて「猫チャリオット」。
ある逸話には、ある日突然いなくなった夫を探すために、フレイヤは猫の戦車に乗って、駆け回ったというお話があります。
しかも、その道中、彼女の流した涙は、黄金になったのだとか。
容姿だけでなく、その痕跡まで美しい!
愛人No.1「オッタル」
そして、欲といえば、彼女の性欲もすごいものでした。当然、たくさんの男性を侍らせていました。
ただ、そんななかでも、フレイヤのお気に入りだったのは、「オッタル」という人間でした。
これは、オッタルが黄金を賭けて、「先祖名暗唱バトル」をしていた時のお話です。
フレイヤは、お気に入りのオッタルを勝たせようと張り切ります。
そこでまず、オッタルを猪に変え、物知りの女巨人ヒュンドラの元を訪ねます。
ヒュンドラは当然、猪の正体を見抜きます。しかし、「これは、ただの猪よ!」とシラを切り通すフレイヤに負け、ヒュンドラは、先祖の名前を教えるのでした。
神が、庶民のために力を使ったということを全く恥もしない。そして、そういった身分の隔たりを乗り越え、一人の人間をしっかりと愛せる。
まさに「愛の女神」です。
黄金の首飾り
黄金の首飾り「ブリージンガメン」を手に入れた時の話も、すごいものでした。
この首飾りは、もともと、4人の小人族が作ったもので、小人たちはそれを売る気などありませんでした。
しかし、フレイヤは欲しくて欲しくてたまらなかったので、譲って欲しいと、懇願します。
すると、小人たちは、「お金には困っていない」という。しかし、「それでも!」とアタックしてくるフレイヤ。
そこで小人は、「私と夜を共にしてくれるなら……」と下卑たお願いをしてきます。
一応、「愛と美の神」をうたう立場ですから、醜い小人などと、一夜を共にするのは……。
と、色々悩みながらも、フレイヤは、その申し出を受け入れ、小人の4人のそれぞれと一夜を共にし、首飾りを手にするのでした。
ロキの密告
無事、首飾りを手にしたかと思われた。しかし、トラブルが起こります。
なんと、フレイヤの淫行を、陰から見ていたロキが、オーディンに密告したのです。
当然、オーディンは、激おこです。そして、フレイヤから、首飾りを取り上げてしまいました。
せっかく体を張って手に入れたものですから、フレイヤも黙っていません。抗議をしまくります。
そこで、オーディンはある条件を出すのでした。
「人間界で、二つの国を永遠に戦わせろ!」と。
フレイヤは、一も二もなく人間界へ行き、ヘジンという王に、魔法をかけ、正気を失わせてしまいます。
そうすることで、もう一方の、デンマーク王「ホグニ」との戦争を引き起こすことに成功したのでした。
こうして、フレイヤは、無事に、首飾りを取り戻したのでした。
おわり
自分さえ良ければ、自分の欲が満たせればよい、というフレイヤらしいお話です。
ちなみに、このヘジンとホグニの戦いは「ヒャズニングの戦い」と呼ばれています。
両国は、皆殺しになっては復活し、再び戦うという運命の輪に閉じ込められてしまいました。
この終わらない戦いは、今もどこかで続いているのかもしれません。
ボーナストリビア:金曜の「フライデー」は「フレイヤ」から!
スキャンダルに染まった彼女でしたが、意外なことに、嫌われ者ではありませんでした。
むしろ、北欧の人たちに、好かれていたとまでいえます。
例えば、ドイツ語で「女性」を意味する「フラウ」は、フレイヤが語源だとされています。
また、他にも、金曜日の「フライデー」は、「フレイヤの日」という意味で名付けられました。
ただ当然、一夫一婦制を重んじ、不貞に厳しいキリスト教からは、忌み嫌われる存在です。
また、キリスト教が猫を魔女の象徴として扱っていたのも、フレイヤの猫チャリオットが関係しているとも言われます。
人間だけでなく、猫にも迷惑をかけたフレイヤ。
彼女は本当に「豊穣の神」だったのでしょうか。
(参考文献)