偽りの記憶
人間の記憶力が当てにならないのは、あなたもご存じのことだと思います。
オレオレ詐欺や、道端でたまたま知り合った旧友だったという人物のこと、占い師の的をいたかのような当意即妙の言い回し。
あなたは、このような状況に置かれた時、ついつい、「あー、〇〇さんね」「あ、うんうん覚えてるよ」「うわ、確かに」などと、思ってしまうはずです。
それもそのはず。
あなたの記憶は、あなたが思っている以上に抽象的で、ほとんどが曖昧なものです。
車は「ぶつかったのか」それとも「激突したのか」
このような、偽りの記憶(虚偽記憶)研究をしている方に、エリザベス・ロフタス博士がいます。
彼女は、私たちがどれほど都合よく記憶を変容させるかを実験しました。
まず、参加者に交通事故のビデオをみてもいます。
その後、一つのグループには「車がぶつかった(hit)時のスピードはどれくらいでしたか?」と尋ね、また別のグループには「車が激突した(smashed)時のスピードはどれくらいでしたか?」と尋ねました。
すると、「激突した」という言葉を聞かれたグループは平均で時速16.83キロメートルと答えたのに対し、「ぶつかった」という言葉を聞かれたグループは、平均で12.87キロメートルと回答しました。
もちろん、両グループとも、同じビデオをみてもらいました。
聞き方を変えただけです。
しかし、それでもこれほどまでに、スピードの評価に差がみられたのでした。
またさらに、この実験の一週間後、参加者に対して、一週間前にみた事故のビデオで、「割れたガラスをみたかどうか」を尋ねてみました。
すると、「激突した」という言葉で尋ねられたグループは、割れたガラスをみたという回答の割合が高まりました。
実際は、割れたガラスなど一枚もないにも関わらずです。
顔は騙せる!
このような虚偽記憶の実験は、まだまだあります。
例えば、ランド大学などが行ったテストです。
まず、男性の参加者に異性の写真を複数見せ、中から好みのタイプを選んでもらいます。
それから、その女性を選んだ理由を尋ねました。
すると、「顔が整っているから」や「優しそうだから」などという解答が得られました。
そして今度は、参加者が気づかぬよう女性の写真をこっそりと入れ替え、まったく別人の写真を見せたうえで、「この女性を気に入った理由は?」と再確認しました。
すると、7割の人が、写真が変わったことに気づかず、別人の女性に対し「性格が良さそう」や「目が大きいから」といった理由をその場で捏造し、本人も自分の発言を心から信じたのです。
おわり
「激突したんだから、スピードも早く、窓ガラスも割れたに違いない」
「さっきと同じ写真を見ているのだから、私はこの女性を好きなはずだ」
脳が一度このように考えたために、あとは、その判断に合わせた記憶をとっさに捏造していったわけです。
一般に、ページを写真のように記憶できるのは0.00数秒、聞こえる音をそのままの音として記憶できるのは数秒程度だと言われています。
コンピュータでない人間はそもそも、全てを完璧に記憶するなどということは、不可能なのです。
ですので、何か記憶に合わない事が生じたときは、そのつじつまを合わせようとします。
そして、このように、後から伝えられた情報によって記憶が変化することを「事後情報効果」といいます。
詐欺師や占い師などが、匠などは、まさにこの記憶のシステムを知ってるからでしょう。
「自分の記憶はあてならない!」
このことを忘れないようにしましょう!
ボーナストリビア: 「デマ」と「ガセ」の違い
刑事や警察のドラマなどを見てるとよく、「デマかせ」「ガセネタ」などという言葉が登場します。
どちらも「嘘」を意味する言葉です。
しかし、そのニュアンスには微妙な違いがあります。
まずは「デマ」についてです。
デマの語源はドイツ語の「デマゴギー( demagogie)」からきています。
デマゴギーの意味は、単なる嘘や誤った情報を指す言葉ではなく、その嘘や情報によって感情を変化させ、何らかの行動を起こさせるという悪意があります。
例えば、「あいつの父さん、犯罪者なんだぜ!」とクラスメイトをいじめの標的にするのは、デマです。
一方で、「ガセ」は「お騒がせ」からきていると言われます。
例えば、「なんか、あいつの父さん、歯槽のう漏らしいぜ……」というのが、ガセです。
この時、デマとの最大の違いは、その情報に悪意がないことです。
つまり、勘違いや思い違いから発せられた情報であるということです。
より簡潔にいうなら、悪意のある嘘が「デマ」で、単なる噂が「ガセ」というわけです!