エイジプト繁栄
宰相となったヨセフは、豊作の7年間、忙しく働き続けました。
来たる7年後の飢饉に備え、国中の作物を集め、倉庫に蓄えていたのです。
そして、豊作が終わり、ついに飢饉の7年となりました。
飢饉は世界中で起こり、人々は次々に飢えてしまいます。
しかし、エジプトは豊富な蓄えがあったために、飢餓に苦しむ人がなくなり、各地から食料を求めてやってきた人たちもおり、エジプトに莫大な富をもたらす結果となりました。
飢えたお兄ちゃん
ある日、そんな食糧を買いにやってくる外国人の中に、兄達がいました。末の弟「ベニヤミン」を除いた 10 人の兄達です。
しかし、兄たちは、宰相がヨセフであることには気がつきません。ただ、宰相であるヨセフにひれ伏すだけでした。
この時、ヨセフは小さい時に見た夢を思い出しました。兄たちに馬鹿にされた夢が、現実となったのです。
ヨセフは彼らを恨んではいませんでした。ただ、兄達が今どんな思いで生きているのか、そのことに少し興味を持ち、試そうとしました。
ヨセフは言います。「おまえたちは、外国からきたスパイだろ!」
通訳を通して語られる言葉に、兄達は震えあがります。「とんでもございません、私達はただの羊飼です。カナンに住むヤコブの子で、12人兄第でございます。ただ、末の弟はカナンに残っております」
ふむ、とヨセフは一拍おき、「だが、わたしはどうしてもおまえ達の話を信用できない。だからこうしよう。1人を残して、カナンに帰りなさい。そして、その末の弟を連れてくるのだ。そうすればおまえたちが、まっとうな人間だと信じよう」
それからヨセフは、次男のシメオンを牢に入れ、他の兄弟たちには食糧と共にカナンへ帰しました。
ダメなお兄ちゃん再び
カナンに着いた息子達の報告を聞いたヤコブは、ベニヤミンをエジプトに連れていく事を嫌がりました。
ベニヤミンの母親は「ラケル」で、ヤコブが最も愛した妻でした。
ラケルが生んだ子はヨセフとベニヤミンの二人だけで、ヨセフを失い、再びベニヤミンを失うとなれば、それはヤコブにとっては耐えがたい苦痛でした。
しかし、買ってきた食糧は減っていき、再び、エジプトに行かなくてはなりません。
ヤコブは、自分たちが生き残るには、他に手段はないと思い、ベニヤミンと息子を再び、エジプトへ向かわせました。
兄たちとベニヤミンは緊張しながら、再びヨセフの前で、ひれ伏します。
一方、ヨセフは、自分の弟であるベニヤミンを見るや否や、胸が熱くなり、挨拶を終えると奥の部屋で、涙を流しました。
そうして、無事、シメオンが解放され、ヨセフの家で食事をした兄たちは、食糧と共に、帰路に着きました。
ヨセフの逆襲
無事食料を確保した兄弟たちは、安心した面持ちで帰っていました。
しかし、そこにヨセフの家来が追いかけてきて、こう言いました。
「おまえ達、主人様の“銀の盃(さかずき)“を盗んだだろ!」
いきなりのことに、兄たちは慌てました。
「とんでもございません。そんなこと……! 疑うなら荷物をお調べになってください」
すると、ベニヤミンの袋から銀の杯が出てきました。
兄たちの顔から、血の気がひいていきます。ヨセフの策略にまんまと、はまってしまったのです。
エジプトに引き返した兄たちは、ヨセフの前にひれ伏しました。
「おまえ達は何という事をしたのだ。許せん。銀の杯を盗んだ末の弟は、わたしの奴隷とする。他の者は帰りなさい」
兄たちは黙りこくってしまいます。
が、その時、四男のユダが立ち上がりました。
「宰相様、お聞きください。私の年老いた父は、ベニヤミンを愛しております。もしベニヤミンが帰らないことがあれば、悲しみのあまり死んでしまうことでしょう。ですので、どうか、ベニヤミンの代わりにわたくしめを奴隷としてください。父が悲しむのを見たくはありません」
その場を沈黙が支配しました。
優しすぎるヨセフ
しばらくの沈黙後、ヨセフは俯き、そして泣きながら、家来達に命じました。 「みんな、ここから出ていきなさい」 家来達は言われるがまま退出し、部屋にはヨセフと兄たちだけになりました。
ヨセフは、母国語のヘブライ語で話しかけます。 「わたしはヨセフです。お父さんは元気ですか?」
兄達は驚きのあまり、声も出ません。
ヨセフは泣きながら言います。
「驚くことはありません。かつて、あなた達は悪を行いました。しかし、神はその悪を善に変えてくださいました。神は一族を救うために、わたしをエジプトに連れてきたのです」
兄達がかつての過ちを後悔し、父のためなら身代わりになると言ったことがあまりに嬉しく、ヨセフはそれだけで、満足したのです。
おわり
それから、ヨセフと兄たちは、再会を喜びました。
ヨセフは父ヤコブと一族をエジプトに呼び寄せ、良い土地に住まわせます。
こうして、ヤコブの子孫はエジプトで増えていき、イスラエル民族と呼ばれるようになるのです。
またこの後、ベニヤミンをかばった「ユダ」は、やがてイスラエルの王を生む氏族になっていきます。そして、およそ1800 年後、このユダ族からイエス・キリストがうまれるのです。
皆さん、いかがだったでしょうか。今回までの長い物語が、「創世記」のストーリーとなっています。
次回からは、「出エジプト記」です。
お楽しみに!
ボーナストリビア:本当に奴隷から成り上がれるのか?
ヨセフが、奴隷から宰相へと、いきなり立場が逆転するなんてありえない、と思われるかもしれません。
あまりにできすぎだと。
「神の奇跡」といってしまえばそれまでですが、奇跡だけでないのもまた事実です。
当時、エジプトは「ヒクソス」と呼ばれる民族によって支配されていました。
彼らの特徴はなんと言っても、その武力にあります。強力な軍隊を持ち、戦さ上手でもあったために、彼らは一気に、エジプトを支配してしまったのです。
しかし、国を管理し、統治するということは、非常に苦手でした。戦さで、敵の動きが読めても、数年後の国の行く末までは想像できなかったのです。
そのため、武力ではなく、知力に秀でていたヨセフが、瞬く間に信頼を勝ち取ったことにも頷けます。
ヒクソスが苦手としていた技術を丸ごともっていたわけですから。
また、ヨセフが、このようなマネイジメント能力に優れていた背景には、ヤコブの影響があります。
ヤコブは商才のある人で、ハランにいた時から、莫大な富を得ていました。ヨセフもその才能や影響を受けていたと考えられます。
さらに、ヒクソスは血の気の多い民族であると同時に、素直で単純な人達でもありました。
ヨセフが知恵を披露すれば、素直に驚き、純真な心で、その知恵を用いようと思ったのです。
いろんな能力を持った、いい人同士が集まれば、自然と組織は成長していくというわけです。
(参考)