クリエイティブティがわかる三つの問題
以下の問題について少し考えてみてください。
問 1 「スコット氏は激しい雨のなかを散歩に出かけました。スコット氏は傘を持たず、帽子も被っていませんでした。そのため、スコット氏の服はずぶぬれになりましたが、なぜか髪の毛だけはまったく濡れていません。なぜでしょうか?」
問 2 「清掃人が高い建物の窓を拭いていたところ、 20メートルのハシゴから足をすべらせて、コンクリートの歩道に叩きつけられてしまいました。しかし、奇跡的に彼はケガひとつ負っていません。なぜでしょうか?」
問 3 「古代に生まれたものでいまも使われており、壁の向こう側を透かして見ることができる発明品とは何でしょうか?」
いずれも、心理学の実験で、創造性の計測に使われるクイズです。
素早く正解を出せたら、あなたは高いクリエイティさを持っていることになります。
※正解:(1)頭髪がなかったから。(2)ハシゴの一段目から落ちたから。(3)窓。
「しょうもな!」と思ったそこのあなた!
しょうもないナゾナゾだと思われたかもしれません。
しかし、この問題は、私たちの脳の仕組みをよく表しています。
問1の場合、「 傘もささずに雨の下を歩いた」と聞くと、誰しもが全身ずぶ濡れな男のイメージします。
問2の場合、「 20メートルのハシゴから落ちた」と聞けば、誰しもが一番上の20段目から落ちたとイメージします。
問3の場合、「壁を透かし見る発明」と聞けば、「発明」で連想する火薬や車輪、羅針盤といった知識が浮かび、それ以外は思いつかなくなります。
脳はこのように、頭の中で勝手に、”物語”を作ってしまうのです。
ナゾナゾやトンチ、クイズは私たちのこのような脳の仕組みを巧みな使ったトレーニングとも言えるのです。
※ここでいう”物語”は、「物事の因果関係」のことを意味します。
人は「物語」を秒で作っている!
以上を踏まえると、私たちの脳は、「物語」を生み出すための器官だともいえます。
これまでの経験や知識によって、与えられた条件で、その状況をイメージする。
そのため、先ほどの問題でも、どこかで聞いたことをある人を除いて、多くの人は、解答を間違えたり、もしくは、解答まで多少の時間がかかったりしたはずです。
また、この「物語捏造」にはもう一つ面白いところがあります。
それは、捏造するまでの時間がほぼ0秒であることです。
その状況下、現時点で、これまでの経験や知識から最適だと思われる解を、0.1秒で叩き出してくれるのです。
時速200kmのボールも”物語”で解決!
私たちは、この0.1秒の「物語捏造」技術によって、たくさんの恩恵を受けています。
例えば、スポーツ。
プロ野球選手は時速150km近い球を、テニス選手は平均時速190km以上の球を何なくと打ち返します。
球技だけでなく、打突までの0.2-3秒の剣道や、超至近距離で時速40kmのボクサーパンチなど。
よくよく考えてみると、いくらプロといえど、人間が、このようなことができるのは異常です。
実際、人間の脳が目で見たものを処理するのに、思ったよりも長い時間が必要です。
複数の実験によれば、目から入った光が網膜で電気信号に変わり、脳内でイメージに構成されるまでかかる時間は約 0.1秒とされていて、どんなに動体視力が良い人でもこの数値は変わりません。
目だけでは、「相手がくる」と認識した時点で、実際の攻撃はすでに近く進んだ計算になります。
これだけ視覚処理と現実の時間にズレがあるのです。
では、プロプレーヤーのこの異常さの理由はどこにあるのでしょう?
それはやはり、脳が作った”物語”にあります。
たくさんの素振りや練習、試合を繰り返していくうちに、私たちの脳で、「現実」に似た“物語“を作れるようになります。
❶周囲の状況がどう展開するかについて事前に物物語を作る
❷目や耳、鼻などで得た情報を脳の物語と比べる
❸脳の物語が間違っていたところのみ修正して〝現実〟を作る
以上のようなプロセスと、シミュレーション、予測をすることによって、実際より速く身体を動かすことができるのです。
おわり
この「物語捏造」スキルは、スポーツだけでなく、私たちの日常生活でも同様な働きをしてくれます。
例えば、車が前方から突進してきた時。
私たちがそれを避ける動作に入れるのも、このスキルのおかげです。
逆に、まだ知識や経験もない幼児が、車が前方から向かってきても、それに反応できず、ただ呆然と立ち尽くしてしまうのは、“物語“を捏造できないためです。
良い面も悪い面も持つ、この「物語捏造スキル」。
あなたはどう思いますか?
ボーナストリビア:
私は個人的に、 「トドのつまり」という言葉が好きなのですが。
この「トド」って、お魚さんだということをご存知でしょうか?
「トド」といえば水棲生物でアシカの仲間の「海馬(セイウチ)」を想像しがちです。
しかし、この動物は全く関係ありません。
海に住む生き物という点では間違いではないのですが、「トド」は「ボラ」という魚の名前なのです。
ボラはスズキやブリなどに代表される出世魚の一つで、トドはボラが出世した最終形態です。
具体的には、「オボコ →スバシリ →イナ →ボラ →トド」という風に出世していきました。
このように、オボコの出世がトドで詰まってしまう様子を「トドのつまり」と言い、「結果的に」「最終的に」という意味で使われるようになったのです。
トドのつまり、「トド」はトドだと、勝手に“物語“を捏造していたわけです。