「エサウ」と「ヤコブ」
イサクには双子の息子がいました。兄のエサウと、弟のヤコブです。
ただ双子にも関わらず、二人は正反対の人間でした。
兄は赤黒い肌と、毛むくじゃらの外見であったのに対し、弟のヤコブは、色白で、すべすべの肌という見た目でした。
また、二人の違いは、外見だけではありませんでした。
兄はアウトドアタイプで、狩りが大好きだったのに対し、ヤコブは、徹底したインドアタイプで、料理などをして過ごしていました。
狡猾なエサウ
そんな二人の、ある日のエピソードです。
エサウはいつものにように、狩りから空腹の状態で帰ってきました。そして、家に着くと、ちょうどヤコブが豆の煮ものを作っている最中でした。
「腹ペコだ。俺にも分けてくれ」と、エサウは言います。
それに対し、ヤコブは「じゃあ、長男の権利を僕に譲ってよ」と微笑みながら、答えました。
エサウは、そんなものでいいのかと、取引成立。バクバクとご飯を食べ始めました。
この時代、「長男の権利」とはつまり、父親の持つ財産や権威を引き継ぐ者のことを言います。
その権利を、エサウは豆スープと交換してしまったのです。
両親の偏愛がもたらしたトラブル
数年が経ち、ある日のこと。
年老いイサクは、エサウに言いました。
「私はもう長くない。だからお前に長男にこの地位を譲りたいと思う」
イサクは、豆スープの一件を忘れていました。「信仰の父」と呼ばれるイサクは、一日経てば全て忘れる、究極の鶏頭の持ち主だったのです。
「そこで私は最後に、お前の料理が食べたい。今すぐ狩にって、それを食べさせてくれ」
それを聞くなり、エサウは喜び勇んで、野に出かけました。
一方、引きこもりのヤコブは、このことをお母さんから聞きます。
「このままだとまずいわ! 今すぐ、羊を一匹料理し、エサウのふりで、お父さんをもてなしなさい」
インドア系男子のヤコブは、やはり不安でした。
「大丈夫、お父さんは目が見えなし、頭も弱っているから、余裕よ!」
しかし、ヤコブは、色白のスベスベ肌。いくらなんでも……。
「大丈夫って言ってるでしょ! そんなの腕に毛皮を巻けばいいじゃない。さあ、急いで」
実は、イサク一家には一つの問題がありました。それは、二人の息子に対する、異なった偏愛です。
イサクはエサウを気にかけていましたが、妻リベカはヤコブを愛していたのです。そして、このような偏愛が、今回の駆け引きをもたらしてしまったのでした。
ヤコブはリベカの作戦どおりに実行しました。そして、年老いたイサクはまんまとそれに騙され、ヤコブに「長男の祝福」を与えてしまったのです。
おわり
当然、エサウは怒り狂い、ヤコブを殺しにきます。
ヤコブは再びリベカ(お母さん)の助言に従い、リベカの実家があるハランに逃げていきます。
以上、引きこもりが天下を取るまでの物語でした。
ボーナストリビア:石枕の奇跡
そんな逃亡生活のある夜。
旅の道具を持っていなかったヤコブは、石を枕にして眠っていました。すると、ある夢を見ました。
そこに見えたのは、天から地につながる階段。それを天使達が上り下りしていたのです。
そして、神の声が聞こえました。
「わたしはあなたと共にいて、決して見捨てる事はない」
続けて、「この土地をあなたとあなたの子孫に与える」と言ったのでした。
アブラハムに語られた「約束の言葉」が、再びヤコブにも語られたのです。
このエピソードから、雲の間から差し込み、地上に届いている太陽の光を「ヤコブの梯子(はしご)」と呼ぶようになりました。
(参考)